その男、ヒモにつき 第8話
- swtmmrs
- 2016年4月21日
- 読了時間: 5分
episode8「揺らぎ」


「――あれ、この時間にお客さん一人もいないなんて珍しいなぁ。」

「二階席に、とは言ってたけどどの席だろ...」

「特に札とか置いて無いし...ここでいいのかな?」
「――レイカさん、ですか?」
「えっ?」

「フフ、やはりそうでしたか。遅くなってすみません、西園寺タカマサです。」
「あぁ、あなたが...!(想像してたよりイケメンだ...)はじめまして。」
「はじめまして。お好きな席へどうぞ、今夜は貸切なので。」
「えっ、貸切なんですか!?(どおりで人がいないわけだ...)じゃあ、ここで。」
・・・

「――お写真を拝見した時もお綺麗な方だと思いましたが、実物はもっと素敵ですね!」
「(わわっ、さらっとこんな事が言えちゃうタイプなのねこの人...)そ、そんなことないですよ!...お店の照明が良いからじゃないですか?(笑)」
「フフ、謙遜していらっしゃるんですね。そんな所も素敵です。」
「(わー!なんか、落ち着かない!)」

「――あ、そういえばレイカさんは病院にお勤めなんですよね?」
「えぇ、看護師です。まだまだ新米ですけど...」
「パソコンとか得意だったりします?」
「パソコン、ですか?...えぇまぁ、事務作業もあるので基本的なことならある程度出来ますよ。」

「そうですか!実は、父の会社の事務枠が空いてまして、もしよければレイカさんに来ていただけないかと思いまして...」
「(...ん?何故事務に...?)えっと、どういうことでしょう...?」
「いえ、今までちゃんとお仕事をされてきたようなので、いきなり専業というのも酷な話かなぁと...ずっと家にいるのも退屈でしょうし...あ、もちろんレイカさんが専業で構わないというのなら僕も賛成します!どちらでも構いませんよ!」
「(えっ、ちょっと待って...もしかしてこれ、結婚前提で話進められてる...?!お母さんなんて話したのよ!とりあえず会ってみるだけならってことで承諾したのに!)あ、あの...大変言い難いのですが...」
「はい?」

「...西園寺さんとは今日こうして初めてお会いしたばかりですし、まだこの段階では結婚までは考えていなくて...それに、今の仕事を辞める気は全く無いです。」
「――えっ?お母様からお聞きした話ですと、真剣に結婚を考えているのでその辺もきちんと話し合うように、とのことでしたが...」
「(あーやっぱり、勝手にそういう風に話したのね、お母さん...)いえ...なんというかその...」
「...?」
「(....あぁもう、面倒臭い!!)」

「....ぐすっ...わ、わたし...」
「――えっ?!ど、どうしたんです?!」
「...本当はここに来るつもり無かったんです...母が勝手に決めて...断りきれなくてそれで...うぅっ...」
「えぇっ?!そうなんですか?てっきりレイカさんもそのつもりだと思って...と、とりあえずお顔を上げて下さい!泣かないで...!」
「...ごめんなさい...ぐすん...」
「いえそんな!僕の方こそごめんなさい、レイカさんの話もまともに聞かず...お恥ずかしい...」

「――あはは!なーんて言ってみたりして!ごめんなさい、びっくりしました?(笑)」
「えっ!?」
「...冗談ですよ!ちょーっとだけ女優に憧れてたりしたものですから、なんとなく自分の演技力を試してみたくなっちゃって(笑)悪ふざけが過ぎましたね、すいません。(...だめだ、流石に本当だとは言えないや...)」

「もう、びっくりしましたよ!(笑)レイカさんってユーモアもある方なんですね...ますます気になってしまいますよ...!」
「えっ、あぁ、いえ...(――どうしようこれかえって逆効果だった?!)」

「――そうだ!女優に憧れてるってことは、映画とかも結構観たりします?」
「えっ?ま、まぁそれなりに?(苦し紛れに言っただけなんだけどなぁ...)」
「じゃあ、今度一緒に映画を観に行きましょうよ!僕、しばらく映画館に行ってないので久しぶりにあの空気を楽しみたいなぁと思ってまして!」
「え、映画ですか?そ、そうですねぇ...(うわーどうしよう...)」
「フフ、是非レイカさんの観たい映画を観たいので、後で考えておいて下さいね!」
「は、はぁ...(完全にしくじったなこれ...)」

「――レイカさん、今日は本当にありがとうございました。こうしてお会いできて光栄です!」
「あっ、いえ、こちらこそ...(帰って一人反省会だぁ...)」
「お家まで送らせて頂きますね!」
「だ、大丈夫です!ここから近いですし!」
「大分遅くなってしまいましたし、女性が夜道を一人で歩くのは危ないですから!さ、行きましょう。」
「そ、そうですか...?(見かけに寄らず結構強引だなぁ...)」
・・・

「――すいません、わざわざ送って頂いてしまって....」
「いえ、こちらこそ随分遅くまで付き合わせてしまってすみません。」

「――では今日はこの辺で失礼します。また後で連絡しますね!」
「は、はい...(嗚呼、どうかあなたが今日の事を綺麗さっぱり忘れてしまいますように...)」
「ではまた!」
・・・

――ガチャッ。
「...ただいま。」
「おかえりなさいレイカ!どうだった?!」
「う、うんまぁ...それなりに...(予想外の展開になりました...)」
「なによー、はっきりしないわね!うふふ、まぁいいわ、後は若い者同士でって事で...」
「――明日も早いからもう帰るね。おやすみなさい。」
「え?あぁ、そうだったわね!お疲れ様!」
・・・

「はぁ~、疲れた!!これに比べたら夜勤なんて全然どうってことないわね...」

「――それにしても...西園寺さん。初対面であんなふざけた態度とったのに全然引かないなんて、相当鈍感というか...変わり者なのかな...私だったらドン引きだけどなぁ...ちゃっかり次の約束までしちゃったし、どうしよう私...」

「――もう、寝て忘れよう!明日は休診日明けでまた忙しくなりそうだし、ちゃんと寝とかなきゃ!おやすみなさーい...」
――ピンポーン。
「えっ、誰だろうこんな時間に...」

「――はーい。」
――ガチャッ。

「キョ、キョウスケ君?!」
「ごめんレイカちゃん、こんな夜中に...」

「大丈夫だけど、どうしたの...?何かあった?」
「――それがさ...大変な事になってて...」

「うっ、思い出しただけで頭がっ....」
「ど、どうしたの?!大丈夫?!とりあえず上がって!」
to be continued...